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ついにテントを買ってしまった。というのもそろそろ日帰りではなく、1泊2日程度の行程で「縦走」というものをしてみたかったからだ。「縦走」とは登山を始めて知った言葉で、山から山へと尾根伝いに歩くことであるが、この言葉に最近惹かれているのだ。「北アルプスを縦走しました!」「八ヶ岳を縦走しました!」と山で出会う登山者達からこの言葉を聞いて、「何て格好良いフレーズなのだ!俺も縦走したい!」こう思ったのだ。とは言え、別に縦走するにはテントで無くとも山小屋に泊まれば良いのだが、どの山にも山小屋があるわけでは無く、それに山小屋は宿泊費がべらぼうに高くてとてもじゃないが毎回は払えない。その点、テント泊ならば幕営料は数百円で済むし、誰に気兼ねする事も無く自由に行動可能である。という事でテントを購入したのだ。買ったテントは「ダンロップのVL-21」、軽量テントで登山を始めて間もない僕にも背負える重さだ。テントを買ったからには展望の良い山の山頂にテントを張り朝日を望みたい。早速インターネットで展望の良い山頂にテントを張れる山を探したところ、「あの空の下で会おう」より武尊山がリストアップされた。目指すは武尊山である。
水上駅から湯の小屋温泉行きのバスに乗り、久保のバス停で下車する。バスから降りたのは僕一人だけだ。炎天下の中、延々と続く2kmもの登りの舗装路を1時間程歩くと登山口に到着。登山口には「熊に注意!」の看板が建っており、登山道も笹薮で覆われていて獣道のような有り様だ。一人でこんな獣道のような登山道を歩いて、熊に遭遇しないだろうか?不安になるが、熊よけの鈴代わりとラジオのボリュームを最大にして歩く。獣道のような登山道は思ったよりもすぐに終わり、道幅も広くなるが、今度は沢筋の登りが始まる。沢道は数日前の雨の影響で湿っており、歩く度に泥が飛び散るためズボンの裾は泥だらけになってしまった。泥まみれになりながらも沢道をひたすら登ると手小屋沢避難小屋への分岐に到着した。
手小屋沢避難小屋は分岐から急傾斜を降らなければいけないのだが、今後のために小屋の中の様子を確認しに向かう。この小屋は薄い鉄板製でまるでカマボコのような変わった形をしている。そもそもどうやってこの山奥にこんなに大きな鉄製の小屋を運んだのだろうか?不思議に思いつつ、ノックしてドアを開けてみるが誰もいない。よく考えると「快晴・土曜日・百名山」という最高の条件であるのに未だに誰とも出会っていない。今日のルートは著書「日本百名山」で有名な深田久弥氏が通ったルートであり、沢山の登山者で賑わっているかと思っていたが、誰一人いない。有名じゃない秩父の山ですら登山者がいたのに謎である。疑問に思いながら近くの河原で涼み、一人寂しく昼食を食らう。
手小屋沢避難小屋から山頂に向けて歩き出すと、山頂を示す案内板が削られている事に気付く。削られている部分をよく見ると、人間の毛では無い獣の茶色い毛が大量に付着していた。恐らく熊であろう・・・。さすがに怖くなってきたので、意味無く歌いながら沖武尊を目指す。途中の鎖場では今回の山行で初めて登山者と出会う。もう既に頂上を後にしこれから下山するとの事であり、挨拶も早々に立ち去って行ってしまった。鎖場を過ぎると森林限界に到達し、ハイマツに覆われた尾根道に変化し、ピークを2度ほど繰り返し進むと武尊山の山頂に到着した。 |