日程・行程

2003年9月4-5日

1日目:鳩待峠-山ノ鼻-中田代三叉路-東電小屋-下田代キャンプ場(テント泊)
2日目:下田代キャンプ場-竜宮十字路-中田代三叉路-山ノ鼻-至仏山-小至仏山-鳩待峠

記録

会社の夏季休暇を利用してどこかに観光と登山に行こうと思った。「さて、どこに旅行に行こうか」と考えた候補は屋久島と尾瀬だ。どちらも観光+登山が楽しめる地域であるが、屋久島は日数的に問題無いが、ツアー予約に要する日数の問題で残念ながら却下となり、結局残った尾瀬+至仏山というプランに決定した。

当日、車で吹割の滝などに寄り道をしながら、鳩待峠に向かう。金曜日の夕方から日曜日にかけて戸倉~鳩待峠間はマイカー規制により観光バスか乗合タクシー以外の車両の通行が禁止され、鳩待峠まで車で来る事は出来なくなるが、今日は木曜日なので気にせずに鳩待峠に向かう。延々と続く急なジグザグ道を車で登り終えると鳩待峠駐車場に到着。駐車場代金が2,500円とべらぼうに高くて驚くが、他に駐車場も無いので仕方なく代金を支払う。それにしても1,000 円の買物券が付いているとはいえ高すぎだと思った。

鳩待峠には鳩待山荘が建っており、食堂に売店があり尾瀬ハイクの起点となっている。帰りにここで駐車場で貰った1,000円の買物券を使ってお土産を買う事にする。鳩待山荘を過ぎると左に至仏山、右に富士見峠、直進方向に山ノ鼻の三叉路に到着。今日は山に登らず、純粋に尾瀬ヶ原のハイキングを楽しむ予定であるため、山ノ鼻への道を進む。石の階段を10分程下ると、樹林帯の沢道の上に敷かれている木道の道に変化する。山の鼻に向かう途中、川上川に架けられた橋の上からイワナやヤマメといった渓流魚が観察出来るポイントに辿りつくが、川を照らす日差しが強く、魚を見る事は出来なかった。橋を過ぎると右手に幹が 3つに分かれたミズナラの巨木が現れ、巨木を過ぎると山ノ鼻に到着した。

山ノ鼻にはビジターセンターがあり、休憩が可能だ。また山ノ鼻には数件の山小屋があり、食料や飲料の購入も可能だ。先が長いのでトイレに用を足しに行くと、女子トイレの前でおばさん連中が「10円でいいわよね?10円でいいのよね?」と作戦会議中だ。「何の事やら?」と思って男子トイレに入ろうとすると、入口付近にトイレ使用料(希望)100円の徴収箱が置いてあり、やっと意味が分かる。さっきのおばさん連中はこの箱に入れる金額を迷っていたのだ。ここまで来てたかだか90円をケチって何になるというのだ。おばさん連中の浅ましい姿を横目に、気分を入れ替えて先へ進む事にする。

尾瀬ヶ原のパノラマ写真を見る

上田代より燧ヶ岳を望む。
上田代より燧ヶ岳を望む。

池塘と燧ヶ岳。
池塘と燧ヶ岳。

山ノ鼻を過ぎると木道の上にゲートが見え始める。どうやら尾瀬の入山者数をカウントしているようだ。尾瀬の植生を乱さないためにゲートに用意されている緑のマット上で靴底の余分な種子などを払い落とし、いよいよ尾瀬ヶ原に入山する。山ノ鼻から中田代三叉路へは木道が続く。というか尾瀬ヶ原の道は全て木道だ。山間部も含めると総延長は57kmにも及び、左右に道が作られており行き交う人で渋滞が出来ないように配慮されているのだ。尾瀬は環境保護のメッカである事は知っていたが、ここまで自然に気を使っているとは思いもしなかった。地球に優しい事は素晴らしい事だ。そして木道の横に点々と存在する池塘(ちとう)とその上に浮かぶ浮島もまた素晴らしい。池塘とは湿原などに存在する池の事であり、窪地の周囲にミズゴケの泥炭層が堆積して水が深く溜まったものをいうそうだ。一本道の木道を40分程歩くと、中田代三叉路に到着。中田代三叉路は尾瀬ヶ原の真中に位置し、前に燧ヶ岳、後ろに明日登る至仏山を望む事ができ、見事な景観だ。

中田代三叉路からこのまま一本道を真っ直ぐ行くと今日の寝床の下田代キャンプ場に1時間程で辿り着くが、それでは面白くない。せっかく尾瀬まで来たのだから沢山の湿原を目に焼き付けたいものだ。という事で少し遠回りではあるが三叉路を左にヨッピ橋へ向かう。ヨッピ橋に向かう途中で木道の工事現場に辿り着くと、工事現場のおじさんが頭に手をやりこちらに何かをアピールしている。最初何を伝えたいのか分からなかったが、ヘリコプターがやって来てすぐに答えが分かる。新しい木道の材料を運ぶためにヘリを使っているのだが帽子が吹き飛ばされないようと注意してくれたのだ。目の前にバリバリと物凄い爆音を立ててヘリがやって来ると、周囲の植物もヘリの風圧により首を曲げている。その後ヘリが荷物を積んで立ち去ると、まるで何事も無かったかのような静寂な時が訪れた。ちなみに尾瀬の木道は水に強く折れにくい国産のカラマツ材を使用しているが、湿原の中では老朽化が早く、10年前後で架け替えが必要だそうだ。

尾瀬ヶ原のパノラマ写真を見る

物凄い風圧だったのだが、よく手ブレも起こさずに撮影できたものだ。
物凄い風圧だったのだが、よく手ブレも起こさずに撮影できたものだ。

尾瀬ヶ原から燧ケ岳を望む。尾瀬ヶ原から燧ケ岳を望む。

30分程歩くと釣り橋のヨッピ橋に辿り着き、ヨッピ橋を20分程歩くと東電小屋に到着。東電小屋は東京電力により運営されている小屋で、一部ではあるが電気も自前の太陽光発電だ。後で知ったのだが、尾瀬は国立公園ではあるが、7割にも渡る地域が東京電力の所有地だ。そして尾瀬ヶ原がある群馬県側に関しては 98%もの地域が東京電力の所有なのだという。確かに工事現場で見た新品の木道には東京電力の「TEPCO」マークの焼印が押されていたのもこれでうなずける。東電小屋の本館と別館の間を抜け、東電尾瀬橋を過ぎると30分程で下田代キャンプ場に到着した。

下田代から見た夕暮れ。
下田代から見た夕暮れ。

下田代には6件もの山小屋があり、それぞれ個性豊かな宿泊が楽しめそうだ。今日は燧小屋が管理する下田代キャンプ場に泊まるのだが、既に数張が幕営済みだ。燧小屋で幕営代の800円を支払い、僅かに残る平坦部に幕営し食事とする。下田代キャンプ場は水が豊富なのか蛇口がいくつもある炊事場が完備されている。また、トイレもあり夜になってもトイレには灯りが点いているので安心だ。食事を終えて下田代十字路付近に夕日を見に行くと至仏山の方向の空が赤く燃え上がっており、綺麗な夕日を見る事ができた。

翌朝7:30に出発する。キャンプ場からは燧ヶ岳が近いのだが、今日登るのは尾瀬ヶ原を挟んだ正反対の場所にある至仏山だ。燧ヶ岳に登ると下山後に鳩待峠まで歩かなければならず、逆に至仏山は下山=鳩待峠に到着というルートであるため、観光気分の今回は至仏山を選択したのだ。30分程歩くと竜宮十字路に到着。十字路付近の池塘や小川には10cm程の魚の群れがウヨウヨと泳いでおり、余りの数の多さにびっくりする。後で調べるとこの魚はアブラハヤという名の魚だそうだ。

尾瀬ヶ原のパノラマ写真を見る

竜宮十字路から30分歩くと、昨日通った中田代三叉路に到着。更に40分歩くとスタートとは逆の下山者を数えるゲートを通り、山ノ鼻に到着。下田代から山ノ鼻までの道は一本道であるため、あっという間に1時間半程で到着してしまった。山ノ鼻で休憩していると、鳩待峠方向から尋常じゃない大きさの荷物を背負った方がやってきて仰天してしまう。何しろ背負っている荷物の量や重さが半端ではないのだ。背負い梯子に大きな段ボール2つと縦長のプロパンガスを背負っているのだ。段ボールはわかるがプロパンガスは反則である。中身が入っていなくともスチール製のボンベであるため、ボンベだけで30kg近くはあるのではないだろうか。先程買ったペットボトルのお茶もこの方達が運んできたのだろうか?そう考えるとべらぼうに高い飲み物の値段にも納得だ。世の中には色々な仕事があるものだ。15kg程のザックを背負ってフラフラしている自分にはとても出来る仕事では無い。仕事をして対価を稼ぐのは大変な事である事を再認識し、至仏山へ向かう。

登山道は樹林帯の急な登りから始まる。尾瀬ヶ原では植生を守るために、延々と木道が敷かれていたが、それは至仏山にも当てはまる。さすがに山道だけあって平坦な場所は少ないが、それでも平坦部には木道が、それ以外の場所には代わって木の階段が敷設されている。急な階段を登り森林限界を過ぎると急に見晴らしが良くなる。森林限界を過ぎ、急な階段を歩いていると土肌の壁から水がチョロチョロと流れ出ている場所に辿り着く。これは地図に書いてある水場の「一杯清水」なのだろうか?思わず武尊山の「笹清水」を思い出す。飲んでみると少し土の味がしたが飲み水としては使えないかもしれないが、沸騰させれば何とか飲む事も可能だろうと、念のために汲んでおく事にする。水場らしき場所を過ぎると、至仏山を形成する蛇紋岩の岩肌の急登が現れ始める。蛇紋岩はマグマが噴火ではなく、大きな造山運動によって固まったままの状態で地上に現れた岩をいうが、表面がツルツルとした質感であるため滑りやすい。登りはまだ良いが、この岩を下るとなるとかなりの勇気が必要だろう。雨など降ろうものなら、僕にはこの岩に足をかけて下る自信は無い。木の階段と蛇紋岩の岩肌を交互に登り、2箇所の鎖場を過ぎると至仏山の頂上に到着した。

至仏山登山道のパノラマ写真を見る

至仏山の頂上は、広いが岩だらけなので座るスペースの確保に苦労する。平日ではあるが、さすがに百名山だけあって山頂には沢山の先客がいた。頂上は今朝歩いてきた尾瀬ヶ原とその先に燧ヶ岳、越後三山などの山々を望む事ができる360度の大展望だ。360度の大展望を見ながらの昼食は最高であった。

至仏山のパノラマ写真を見る1至仏山のパノラマ写真を見る2

登山道中腹より尾瀬ヶ原方面を望む。 登山道中腹より尾瀬ヶ原方面を望む。

急なガレ場の尾根を慎重に歩くと小至仏山に到着。小至仏山といっても標高は2,162mで至仏山と50m程しか変わらない。だが頂上は狭く、至仏山のようにゆっくりと出来ないのが残念である。小至仏山直下の急なガレ場を下ると平らな木道へと変化し、20分程でオヤマ沢田代分岐に到着。直進すると悪沢岳、笠ヶ岳、そして今日泊まる予定の湯の小屋温泉へと至るが、鳩待峠の駐車場に車を泊めているので、左の鳩待峠への道を進む。途中オヤマ沢田代という小さな湿原が現れる。ミニ尾瀬ヶ原とでもいうような小さな湿原で、規模は小さいが池塘もちゃんと存在していた。恐らく池塘を見るのもこれが最後だろう。当分見る事が無いであろう池塘とお別れをし、先へ進む。周囲は蛇紋岩のガレ場から樹林帯に変化し、急な土肌の道を1時間程下ると鳩待峠に到着した。鳩待峠では駐車場で貰った買物券を使ってお土産を購入し、これにて尾瀬ヶ原と至仏山の山旅は終了した。

小至仏山から見た至仏山。山頂から尾瀬ヶ原へ向かう斜面は見事だ。
小至仏山から見た至仏山。

屋久島の代わりに行こうと決めた尾瀬と至仏山であるが、結果として屋久島以上に素晴らしい旅になったのではないだろうか。尾瀬ヶ原に広がる湿原の中で見た池塘に浮島、ヘリコプターを使った木道工事、下田代での快適なキャンプ、竜宮で見たアブラハヤの大群、そして至仏山から尾瀬ヶ原を望む素晴らしい展望。思い出に残る出来事で一杯だ。今度は燧ヶ岳から至仏山を望む旅で再び尾瀬を訪れる事にしよう。