日程・行程

2003年8月29-30日

1日目:大輪-三峰神社-妙法ヶ岳分岐-霧藻ヶ峰-白岩山-雲取山荘(小屋泊)
2日目:雲取山荘-雲取山-堂所-鴨沢

記録

休日出勤の振休を利用し、東京都最高峰の雲取山に登る事にしたのだが、秩父鉄道の御花畑駅で思わぬことに気付き、大ピンチを迎えた。というのも前日に銀行に行くのを忘れ、財布の中にたったの3千円しか入っていなかったのだ。現金ではなく、西武線のパスネットカードで西武秩父駅まで来てしまったというのも気付くのが遅くなり、運が悪かった。ここまで来て今更家に戻るわけにもいかないので、これから必要なお金を携帯電話を使って試算する事とする。三峰口駅迄の電車代が430円、大輪迄のバス代は14分なので300円位、三峰ロープウェー代が駅に置いてあるサービスチケットを使って800円(未使用は950円)、雲取山荘でのテント代が500円位、下山後の奥多摩駅迄のバス代は40分なので900円位、そして奥多摩駅から我が家までの電車代が770円と出た。全て足すと合計が3,700円となり、700円オーバーだ。これでは家まで帰れない計算となり、がっかりする。「う~ん、何か削減出来るものは無いだろうか?」と地図を広げてみると、「あった!」。ロープウェー代である。大輪から三峰山頂まではロープウェーで8分だが、登山道が用意されており、2時間かけて登れば何とかスタートラインには立てそうだ。これでロープウェー代を除くと2,900円となり、手持ちのお金で何とか家に帰れる目処が付いた。「もう最悪交番のお世話になってしまえ!」と自分を奮起させ、金の事は気にせずに雲取山を目指すこととした。

秩父鉄道三峰口駅からバスに乗り、大輪バス停で下車する。平日という事もあり、バス停で降りたのは僕を含め、たったの4人だけだ。バス代も予想通りの300円で安心する。鳥居をくぐり、10分程歩くとロープウェー乗り場に到着。発車時刻が近づいても乗ろうとしない僕にイライラしたのか、係りのおばちゃんがやって来て「もうすぐ発車しますけど、乗らないんですか?」と聞いてきた。恐らくここから歩いて登る人間など普段から目にしないのだろう。「お金が無いので・・・」とはとても恥ずかしくて言えず、「僕は歩くのが好きなので、ここから歩いて登ります!」と強気な返答をする。おばちゃんは「あっそう」と言わんばかりの反応を示し、そそくさと乗り場に戻るとロープウェーを発車させ、3人を乗せてロープウェーは旅立って行ってしまった。「人は人、自分は自分!」と前向きに考えようとするが、ロープウェー乗り場の左にある登山道の看板には「山頂まではロープウェーで8分、徒歩2時間」と書いてあり、一人悲しくなる・・・。


大輪で下車し、ロープウェー大輪駅を目指す。

三峰山の登山道はロープウェーの利用により荒廃している可能性があり、心配していたのだが、意外にも整備されていて歩きやすい登山道だ。樹林帯の気持ちのよい登山道を30分程進むと、水が流れ落ちる音が聞こえ始め、水量豊富な清浄の滝が目の前に現れる。清浄の滝は落差8mの神秘的な滝だ。三峰山は明治時代まで修験場として使われてきた経緯があるので、昔はここで滝に打たれて修行していたのだろうか?。ロープウェーに乗った3人はこの滝を見る事が出来ないのだから、何だか得した気分になった。清浄の滝を後にし、急なジグザグ道をひたすら登ると地図には2時間と書いてあったが1時間30分で三峰神社に到着してしまった。ちなみに三峰山の登山道には立派な休憩所が2箇所もあり、清浄の滝の休憩所は屋根付きだ。思ったよりも立派な登山道なので、安心して利用して欲しい。

清浄の滝のパノラマ写真を見る


神秘的な清浄の滝。

三峰神社先の林道を進むと、妙法ヶ岳への分岐となる一ノ鳥居のある雲取山登山口に到着。これでやっとスタートラインに立つ事が出来た。予定より既に1時間半も遅れているので、登山届けを提出して先を急ぐ。再び妙法ヶ岳への分岐となる二ノ鳥居を過ぎ、1時間程歩くと秩父宮両殿下のレリーフが見上げられる霧藻ヶ峰に到着。霧藻ヶ峰は北西面の展望が素晴らしく数々の秩父の山を望む事ができた。霧藻ヶ峰を過ぎると休憩所があり、ここでしばしの休憩を取る。休憩所にある建物の壁には雲取山に登って以来消息が途絶えている行方不明者の張り紙が張ってあった。「僕も気をつけて歩かねば!」と思っていると、足元でヘビが動めいている。数年振りにヘビを見たので思わず「うぉっ!」と声を上げてしまい、近くに座っていたおじさんに笑われてしまった。毒が無いアオダイショウである事が分かると急に強気になり、ストックで突付きながら追いかけると小屋の下の隙間に逃げて行ってしまった。


霧藻ヶ峰からの展望。霧藻ヶ峰は秩父宮両殿下が登山の際に命名した地名で、元は燕岩と呼ばれていたそうだ。

霧藻ヶ峰から10分程歩くとお清平に到着。お清平は広々とした鞍部でここから左に入ると太陽寺への道が続く。お清平からは急登が続き、前白岩の肩、前白岩をヒーヒー言いながら登る。最後わずかに下ると白岩小屋に到着。白岩小屋のすぐ上に白岩山があるが、展望が無いので先に進み、白岩山を少し下ると芋の木ドッケに到着。それにしても「ドッケ」って何だ?山に登っていると普段使う事の無い「ドッケ、タワ、タル、オキ」などの山用語によく出会う。後で調べたところ、ドッケとは「突起」がなまった言葉で芋の木(ウコギ科の落葉高木のコシアブラ)の多い尖った地形に付けられた名前だそうだ。う~む山用語は奥が深い。というか山用語辞典でもないと理解不能である。芋の木ドッケから1時間程登ると大ダワに到着。「タワ」は山の稜線上で、ピークとピークの間の低くなっている所で、鞍部、コルと同じ意味だそうだ。大ダワからは男坂と女坂の2ルートを選択出来るが、僕は男なので悩まず男坂を選択。途中、廃墟となっている雲取ヒュッテの間を抜け、16時に雲取山荘に到着した。スタートからつまずいて1時間半の登りがプラスされてこの時間なので、上出来だろう。

雲取山荘は綺麗な山小屋で、炊事場も用意されており、雑誌で見た東京都が建てた1億円のバイオトイレもあった。山荘に到着後、幕営料の300円を支払い、テントを張る。テント場に置いてある板を利用して平坦な寝床を確保する事ができた。テントを張り終え、雲取山荘前のテーブルで休憩していると、一緒にバスを降りた男性2人組に声をかけられる。どうやら便利なロープウェーがあるのに何故か乗らなかった僕を覚えていたようだ。2人組は何十年も山に登っているベテランで、秩父の山の知識は豊富だ。僕は両神山に行ってみたかったので色々と教えてもらった。話のついでに「そういえば何でロープウェー使わなかったの?」という質問があったが、ここでも恥かしさの余り「清浄の滝を見たかったんです!」と嘘を付いてしまった。本当に何とも情けない社会人である。話をしていた2人組が夕食の時間となり山荘内に戻ると、僕も楽しみにしていた夕食を準備する。メニューは定番のカレーにウインナーとサラダであるが、山荘前の薄明るいライトに照らされると豪華なメニューに感じられた。夕食を食べ終えてテントに戻ると、疲れていたのか7時には眠ってしまっていた。

翌朝5時に目覚める。テント内の換気口から外の天気を確認すると、あいにくの曇り空だ。雨が降らないだけマシだが、それにしても今年の天気予報は当たらない。顔を洗いに炊事場に行くと、山荘に泊まっていた夏休み最後の休日を楽しむ子供達とそのお父さんも起きてきたので挨拶を交わす。子供達と一緒に山荘前のテーブルで朝食を食べ終え、テントを撤収し雲取山荘を後にする。

雲取山荘のパノラマ写真を見る

雲取山荘から樹林帯を30分程登ると頂上に到着。雲取山の頂上は晴れていれば富士山を望めるのだが、見えるのは雲取山頂上を示す看板だけで辺りは霧で覆われていた。看板の前で記念写真を撮っていると、先程追い越した単独行の男性が到着した。話を聞くと、この方も昨日一緒にバスを降りた方で、ロープウェーに乗らなかった僕を覚えていたそうだ。記念撮影を頼まれたので快く引き受ける。男性が去ると、今度は山荘前で一緒にご飯を食べた子供達がやってきた。遅れてお父さんも到着。こちらも親子揃っての記念撮影を快く引き受ける。それにしても子供と一緒に登山とは何とも微笑ましい限りだ。思わず将来僕もあのような父親になりたいものだと思ってしまった。

雲取山のパノラマ写真を見る


残念ながら展望は望めなかったが、東京都最高峰の山に登れて大満足だ。

頂上を下るとすぐに頂上避難小屋に到着。とても綺麗な避難小屋でシュラフさえあれば快適な宿泊が出来そうだ。この避難小屋は扉を開けて徒歩数分で頂上という場所に建っているため、晴れた日にここに宿泊すれば朝目覚めてすぐに富士山を望めるに違いない。次回はここを利用しよう。避難小屋を後にし、更に下ると今度は奥多摩小屋に到着。奥多摩小屋は歴史を感じさせる山小屋だ。山頂直下にあんなに綺麗な避難小屋と雲取山荘があるので宿泊者確保は厳しそうだ。奥多摩小屋付近のヘリポートを下ると七ツ石山と鴨沢への分岐点に辿り着く。分岐点では先程山頂で出会った単独行の男性に追い付く。単独行の男性は七ツ石山に向かったが、僕は曇り空で展望が望めない事により余り興味を示さず、右の鴨沢の登山道を選択する。

鴨沢バス停に向かう登山道は変化が無く、歩いていても余り楽しくない。山々の展望が見えるわけでもなく、鳥のさえずりが聞こえるわけでもなく、延々と続く樹林帯を下るだけの道だ。樹林帯の道を延々と下っていると、目を疑うような光景を目にする。僕の目に飛び込んだのはマウンテンバイクとそれに乗る男性だ。先程から延々と下っているが、この男性はひたすら頂上までペダルを漕いで頂上を目指すのだろうか?登山道の段差はどうするのだろうか?担いで登るのだろうか?様々な疑問を問いかけたかったが、僕の横を「こんにちは!」の一言を言い残し通り過ぎてしまった。世の中には凄い人がいるものである。その後、荒廃した住居を通り過ぎ、車道に出ると、鴨沢バス停への近道を示す看板が目に止まる。地図には車道を通らずに山道を通る近道が記載されているが、どこで間違えたのか結局遠回りの車道を歩いてしまい、鴨沢の先のバス停に到着。バス停に先に到着していた登山者にも聞いてみると、この方も同じ道の間違え方をしてここに到着したらしく、二人で笑ってしまった。

結局不安となっていた帰りのバス代が610円となり、何とか家まで戻ってこられたが、もう二度とこんな思いはしたくない。何気に登山は金がかからないように思われるが、交通費、山小屋での高い食事代、飲み物代等で意外に金がかかる。「世の中金だ」とは思いたくはないが、実際に金が無くては登山も出来ないのだから、今後は山に登る前に財布の中身を確認してから出発する事にしよう。